アニサキス症には、寄生した部位によって「胃アニサキス症」「腸アニサキス症」「消化管外アニサキス症」があり、それぞれ症状が異なります。

アニサキスと胃潰瘍

アニサキス症は、その急激で強い腹痛から胃潰瘍と誤診されることがよくあります。しかし、ごくまれなケースですがアニサキスが胃壁に侵入することで出血性胃潰瘍に発展する場合もあります。

出血性胃潰瘍に発展するケース

吐いている子供2004年に報告された症例です。
患者は56歳の男性。30代の頃に胃潰瘍の既往症がありましたが、その後自分の判断で服薬を中止していました。患者は来院する3日前からタール状の便が出ていましたが、他の症状がなかったのか様子を見ていました。しかしその3日前にトイレで意識を失って倒れているのを妻が発見し、しかも200mlの血を吐いていたために救急搬送されました。通常のアニサキス症と大きく違うのは、この間に腹痛がなかったこと、またこの一週間新鮮な魚は食べていなかったことです。





血圧や心拍に異常はなく、発熱もなし。意識もはっきりしていました。胸部や腹部のレントゲンや心電図にも異常は認められません。しかし血液検査の結果白血球数が上昇し、強い貧血と尿素窒素の上昇が認められ、上部消化管(食道・胃・十二指腸を指します)の出血が疑われます。

そこで担当した医師は、緊急の内視鏡検査を行います。上部消化管出血を伴う病気には、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、出血性胃炎などに加え、胃がんも考えられます。なるべく早く検査を行う必要がありました。すると、胃の中央部に露出した血管を含む潰瘍が発見されました。その潰瘍の中央に、アニサキスの身体が刺さっていたのです。内視鏡に付属している鉗子をつかってアニサキスを抜こうとしますが、途中で切れてしまい、潰瘍の内部に体の一部が残ったと考えられました。そこで血管も含めて潰瘍部分を熱で焼き、処置は終了しました。その後の経過は良好、一週間後に退院したということです。

ウィルスアニサキス症には急激な痛みを発する劇症型と自覚症状がほとんどない緩和型がありますが、このケースは緩和型だったようです。緩和型は身体的な影響を起こさないままアニサキスが死んでしまい、痕跡だけが見つかるケースがほとんどです。この症例では胃壁の太い血管近くにアニサキスが侵入しようとしたからではないか、と考えられています。担当した医師は、「胃潰瘍のようにしか思えないケースでも、内視鏡による検査やアニサキス抗体検査などを行ってアニサキス症かどうかを鑑別し、熱による止血を行うことが有効だ」と記録しています。